「いけばな」は古くからの事を変わらず行っているものではありません。”挑戦”と”変革”こそが「いけばな」の歴史なのです

こんにちは。内藤正風です。

「いけばな」と聞くと多くの方が、”古くからの伝統ある文化”と言う風に思われる人が多いです。確かにいけばなには約700年の歴史がありますので、間違いではありません。
しかしそれと共に、”古くからの事を今も昔と変わらずに行っている”という風に思っておられる方がとても多いのですが、実はそれは大きな間違いなのをご存知でしょうか。

”いけばな”は時代と共に常に移り変わってきている

いけばなの歴史、それは"変革の歴史"といえます。こういうと「えぇ~っ」って思われる方も多いかもしれないですね。
しかしいけばなの歴史を紐とくと、新しい事に常に挑戦し続けてきているのです。

それは自ら挑戦をしたくてしているというよりも、常に移り変わって行く環境や価値観に対応するための挑戦という事が出来ると思います。

床の間は昔から一般に普及していたものではありません

最近はお家に床の間や和室はほとんどありませんが、少し前までは一戸建てであろうとマンションであろうとお家に床の間を設けるというのは普通でした。
しかしこの床の間も実は、戦後の高度成長時代以降に建てられるお家にもれなく設えられるようになったものであって、それまでは豊かなお家にしか無いものでした。

もっとさかのぼれば江戸の初期までは、床なんてまずほとんど一般には目にしない存在だったのです。じゃあそれまではどんなところに床があったかというと、神社、お寺、お城、一部の上級武士の家や超お金持ちの家くらいにしかなかったのです。

いけばなは女性がするモノと言う考え方も最近のものです

「いけばな」ときくと、女性の素養とか結婚前の花嫁修業のように感じられている方も多いかもしれませんが、実はそれも昭和の時代に普及した考え方なのです。
そもそもいけばなは男性が中心に行っていたもので、もっとさかのぼれば武家や貴族、一部のお金持ちが嗜むものだったのですが、いけばなをもっと広く普及させようという事で大正から昭和にかけて地域の婦人会活動や女子高などでいけばなを行うようになり、ちょうどそのころに女性の結婚の花嫁修業と言う考え方とも結びついて一気に女性中心の構図が出来上がったのです。

洋風と言う価値観が入ってきたのも最近です

洋風と言う価値観も明治以降のものです。
江戸から明治に変わって鎖国がとかれて一気に諸外国の文化文明が日本に流れ込んできて、一気に生活が西洋化してゆきました。それまでは和室で座ってと言う生活だったのが、テーブルと椅子を使うようになったりお部屋を洋間にしたり建物自体を洋館にしたりする事が流行ったのです。

どうでしょう、この3つを挙げただけでも環境や価値観が大きく移り変わっていることをご理解いただけるのではないかと思います。

いけばなは不変のものではなく、時代と共に常に移り変わってきている

「いけばな」には古来からの伝承を今に伝えている側面もありますが、それだけではありません。
実は、今と言う時代の中で「いけばな」は何が出来るかと言う事を模索し続けて、新しい挑戦をし続けてきている歴史でもあるのです。

約700年前に「いけばな」は仏教伝来と共に伝わってきた「供華」をルーツとしておりこれまで歴史を積み重ねてきています。特にお花を飾る環境の変化は、いけばなの花形に変革をもたらす大きな要因となりました。
江戸中期になって太平の世となり床の間が一般のお家にも設えられるようになったことによるいけばなの変革、明治になってテーブルや椅子が生活に持ち込まれたことによるいけばなの変革、この様な変革が700年前から環境の変化に合わせて行われてきており、その時代時代の華道家が色々な花形を考案し発表してきたのです。

生き残るためには変化を恐れてはいけない。生き残るためには変化し続けなければならない。

今、基本の生け方やスタンダードな花形として伝わっているものは、200年前に時代や価値観の変化にともなって新しい花形として発表されたものであったり、100年前に新しい花形として発表されたものであったりするのです。
それまでの歴史を土台にして、世の中の価値観や流行り、住宅環境などの移り変りにあわせて、常に変革してきている、すなわちそれまで行ってきたノウハウは「伝承」であり、挑戦を続けてきた足跡が「伝統」という事なのです。

700年の歴史に基づいた「いけばな」として大切にしなければならない事を土台にして、未来に向けて挑戦をする。これこそが「いけばな」の正しい姿なのです。
生き残るためには変化を恐れてはいけない。生き残るためには変化し続けなければならない。まさにダーウインが言う「適者生存」そのものだと思います

内藤正風PROFILE

内藤 正風
内藤 正風
平成5年(1993年)、光風流二世家元を継承。
お花を生けるという事は、幸せを生み出すという事。あなたの生活に幸せな物語を生み出すお手伝いをする、これが「いけばな」です。
光風流の伝承を大切にしながら日々移り変わる環境や価値観に合わせ、生活の中のチョットした空間に手軽に飾る事が出来る「小品花」や、「いけばな」を誰でもが気軽に楽しむ事が出来る機会として、最近ではFacebookにおいて「トイレのお花仲間」というアルバムを立ち上げ、情報発信をしています。ここには未経験の皆さんを中心に多くの方が参加され、それぞれ思い思いに一輪一枝を挿し気軽にお花を楽しまれて大きな盛り上がりをみせており、多くの方から注目を浴びています。
いけばな指導や展覧会の開催だけにとどまらず、結婚式やパーティー会場のお花、コンサートなどの舞台装飾、他分野とのコラボレーション、外国の方へのいけばなの普及、講演など、多方面にわたり活動し多くの人に喜ばれています。