「伝承」を今という時代に落とし込んで、新しい事に挑戦しながら「伝統」を積み重ねてゆくことこそが、光風流の神髄なのです

ごきげんよう、こんにちは、こんばんは、内藤正風です。

今日は光風流本部いけばな教室で、講習会を開催しました。

「新展」こそ、人をワクワクさせる

今日の講習会は「垂発(すいはつ)」という、お花の器を掛けて使う道具を用いた生け方をお稽古していただきました。

垂発という道具自体は古典的なものになります。けれど現在の、玄関にお花を生ける様な空間が無かったり床が無かったりするお家では、この古典的で日常生活の中で目にすることもないような道具が新たな役割を果たして、いけばなの新たな飾り方という可能性を広げてくれるようになるのです。

光風流では「新展(しんてん)」という言葉を折に触れて使います。この「新展」という言葉はあまり耳や目にされたことがないと思います。というのもこの「新展」とは一般的に使われているものではなく、流祖が作った造語になります。
意味は、基本をはじめとする古典的な伝承を踏まえたうえで、そこから尚一層新しく展開してゆくことです。

垂発という古典的な道具も、現在の生活の中に取り入れると、これまでになかった活かし方や役立て方が生まれてきて、本当にこの言葉がぴったりとくるなぁと、講習会を開催しながら思っていました。

いけばなは伝承だけで成立しているのではありません

いけばなは古来からの伝承のみをひたすら大切にしているように思われがちですが、そうではありません。

確かにいけばなには約700年の歴史があり、その意味で言うと沢山の伝承があるのは間違いありません。だって700年分の伝承があるのですからね。
しかしだからと言って「いけばな=伝承」という風に決めてしまうのは、早合点ですし片手落ちだと言わざるをえません。

では”いけばな”とは何なのかというと、「伝承と伝統」だという事が出来るのです。

「伝承」とはリレーのバトンと同じです

伝承をググってみると、

古くからの(制度・風習・信仰・言い伝えなどの)しきたりを、受けついで伝えて行くこと。また、その伝えられた事柄。

と出てきます。

すなわち、昔からの教えと言うバトンや、しきたりと言うバトンなどを先代(多くの場合は親になるのですが)から受け取って、次の代(多くの場合は子供に)伝えてゆくと言うこと。これが伝承なのです。別の言い方をすれば、正しく伝えてゆく伝言ゲームみたいなものということになります。

「伝統」は、前を向いて歩み続けた足跡です

伝統をググると

伝統(でんとう)は、信仰、風習、制度、思想、学問、芸術などの様々な分野において、古くからの仕来り・様式・傾向、血筋、などの有形無形の系統を受け伝えることをいう。

と書かれています。

特に見て頂きたいのは「系統」という文字です。これはすなわち、自分が行っている事に毎日愚直に向き合い、試行錯誤をしながら行なってきたことが積み重なり1つの足跡となったものが伝統という事です。

世の中は日々移り変わっています。時代の流れ、これはいうなれば流行というもので、人々の好みであったり住宅環境というものであったり、価値観というものであったりしますが、この時代というものはどんどん移り変わってゆきます。
例えば、スカートの丈の短いものが流行ったり長いものが流行ったり、ちょん髷が普通だったのがそうでなくなったり、畳の部屋が減ってフローリングの部屋が多くなったりということです。
こういう移り変りの中でその時代にあわせて何が出来るのか、どうしたら皆さんに喜ばれるかを考えて、新しい事に挑戦し試行錯誤のなかで革新してゆく。これを積み重ねてきたものが「伝統」に他ならないのです。

すなわち新しい事に挑戦し続けてきた足跡が「伝統」なのです。

「伝承」と「伝統」を両輪に「新展」してゆく

「伝承」が昔から伝わっているものをそのまま未来に伝えていくことであるのに対して、「伝統」は同じ技術や材料を使いながらも新しい事に挑戦し革新していくものなのです。

今日の講習会の「垂発」も正にその良い事例だと思うのです。
「伝承」である垂発という道具を使って、今の住宅環境の中でお花を生けて使ってみる。あるいは今の時代に合わせた新しい活用方法を模索しながら行なってみるということが「伝統」を紡ぎ出しているという事にほかならないのです。

「伝承」と言う基になるものがあるからこそ、新しい事に挑戦し「伝統」を積み重ねて行く事が出来るのです。
「伝統」を積み重ねてゆくからこそ、「伝承」が増えてより大きなものになるのです。

「伝承」を軽んじては新しい事に挑戦できる範囲が狭くなります。
「伝統」を軽んじては未来への可能性が無くなります。

「伝承」と「伝統」は、全く違う事です。しかしどちらも無くてはならない両輪なのです。
この両輪がどちらも回転するから、未来への扉が開かれ道が伸びるのです。

今日の講習会では、そんなことを改めて意識する機会になりました。

内藤正風PROFILE

内藤 正風
内藤 正風
平成5年(1993年)、光風流二世家元を継承。
お花を生けるという事は、幸せを生み出すという事。あなたの生活に幸せな物語を生み出すお手伝いをする、これが「いけばな」です。
光風流の伝承を大切にしながら日々移り変わる環境や価値観に合わせ、生活の中のチョットした空間に手軽に飾る事が出来る「小品花」や、「いけばな」を誰でもが気軽に楽しむ事が出来る機会として、最近ではFacebookにおいて「トイレのお花仲間」というアルバムを立ち上げ、情報発信をしています。ここには未経験の皆さんを中心に多くの方が参加され、それぞれ思い思いに一輪一枝を挿し気軽にお花を楽しまれて大きな盛り上がりをみせており、多くの方から注目を浴びています。
いけばな指導や展覧会の開催だけにとどまらず、結婚式やパーティー会場のお花、コンサートなどの舞台装飾、他分野とのコラボレーション、外国の方へのいけばなの普及、講演など、多方面にわたり活動し多くの人に喜ばれています。