「伝承」を軽んじては新しい事に挑戦できる範囲が狭くなり、「伝統」を軽んじては未来への可能性が無くなります

こんにちは、内藤正風です。

昨夜は、先週にお店を改装開店された姫路の料理屋さんに、楽しみに行ってきました。

分かる人には分かる写真で。(笑)

「新展」こそ、人をワクワクさせる

これまでの店内は純和風で、お料理や食器なども純和風を基調としたお店だったのですが、この度の改装で店内には洋風的テイストが取り入れられており、お料理や食器などにも洋風のテイストが入っていて、もの凄くパワーアップされていました。

光風流では「新展(しんてん)」という言葉を折に触れて使います。
この「新展」という言葉はあまり耳や目にされたことがないと思います。といいますのもこの「新展」とは一般的に使われているものではなく、流祖が作った造語になります。
意味は、基本をはじめとする古典的な伝承を踏まえたうえで、そこから尚一層新しく展開してゆくことです。

昨日は、本当にこの言葉がぴったりとくるというか、まさにこの言葉が体現されている空間に身を置き、もの凄くワクワクする時間を過ごしてきました。

いけばなは伝承だけで成立しているのではありません

いけばなは古来からの伝承のみをひたすら大切にしているように思われがちですが、そうではありません。

確かにいけばなには約700年の歴史があり、その意味で言うと沢山の伝承があるのは間違いありません。だって700年分の伝承があるのですからね。
しかしだからと言って「いけばな=伝承」という風に決めてしまうのは、早合点ですし片手落ちだと言わざるをえません。

では”いけばな”とは何なのかというと、「伝承と伝統」だという事が出来るのです。

「伝承」とはリレーのバトンと同じです。

伝承をググってみると、

古くからの(制度・風習・信仰・言い伝えなどの)しきたりを、受けついで伝えて行くこと。また、その伝えられた事柄。

と出てきます。

すなわち、昔からの教えと言うバトンや、しきたりと言うバトンなどを先代(多くの場合は親になるのですが)から受け取って、次の代(多くの場合は子供に)伝えてゆくと言うこと。
これが伝承なのです。

例えばノウハウを例に挙げると、初代が経験し蓄積したノウハウを二代が受け継ぎ、二代は初代のノウハウに自分の経験に基づくノウハウを加えたり初代のノウハウに磨きをかけたりして三代が受け継ぎ、と言うようにしてゆくって事が「伝承」なんです。

要するに先に書いたように、リレーでバトンを第1走者から順番にしっかりと渡してゆくのと同じですし、別の言い方をすれば、正しく伝えてゆく伝言ゲームみたいなものということになります。

「伝統」は、前を向いて歩み続けた足跡です

伝統をググると

伝統(でんとう)は、信仰、風習、制度、思想、学問、芸術などの様々な分野において、古くからの仕来り・様式・傾向、血筋、などの有形無形の系統を受け伝えることをいう。

と書かれています。

特に見て頂きたいのは「系統」という文字です。これはすなわち、自分が行っている事に毎日愚直に向き合い、試行錯誤をしながら行なってきたことが積み重なり1つの足跡となったものが伝統という事です。

世の中は日々移り変わっています。時代の流れ、これはいうなれば流行というもので、人々の好みであったり住宅環境というものであったり、価値観というものであったりしますが、この時代というものはどんどん移り変わってゆきます。
例えば、スカートの丈の短いものが流行ったり長いものが流行ったり、ちょん髷が普通だったのがそうでなくなったり、畳の部屋が減ってフローリングの部屋が多くなったりということです。
こういう移り変りの中でその時代にあわせて何が出来るのか、どうしたら皆さんに喜ばれるかを考えて、新しい事に挑戦し試行錯誤のなかで革新してゆく。これを積み重ねてきたものが「伝統」に他ならないのです。

すなわち新しい事に挑戦し続けてきた足跡が「伝統」なのです。

師匠から弟子へ。そして弟子から孫弟子へ。

「伝承」が昔から伝わっているものをそのまま未来に伝えていくことであるのに対して、「伝統」は同じ技術や材料を使いながらも新しい事に挑戦し革新していくものなのです。

例えば左官さんを例に挙げると、左官さんの身体の中にある技術や知識は「伝承」です。
その「伝承」である技術や知識を使って、今の時代に合わせた新しい壁の可能性を模索し続けてきた積み重ねが「伝統」という事です。
すなわち下の写真の様に、漆喰壁という伝承の手法に今風の塗り方や煉瓦という洋の素材を組み合わせることで新しい一歩が記されていくという事なのです。

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「伝承」と言う基になるものがあるからこそ、新しい事に挑戦し「伝統」を積み重ねて行く事が出来るのです。
「伝統」を積み重ねてゆくからこそ、「伝承」が増えてより大きなものになるのです。

「伝承」を軽んじては新しい事に挑戦できる範囲が狭くなります。
「伝統」を軽んじては未来への可能性が無くなります。

「伝承」と「伝統」は、全く違う事です。
しかしどちらも無くてはならない両輪なのです。
この両輪がどちらも回転するから、未来への扉が開かれ道が伸びるのです。

昨夜はそんなことを改めて意識する機会になった楽しい夜でした。

内藤正風PROFILE

内藤 正風
内藤 正風
平成5年(1993年)、光風流二世家元を継承。
お花を生けるという事は、幸せを生み出すという事。あなたの生活に幸せな物語を生み出すお手伝いをする、これが「いけばな」です。
光風流の伝承を大切にしながら日々移り変わる環境や価値観に合わせ、生活の中のチョットした空間に手軽に飾る事が出来る「小品花」や、「いけばな」を誰でもが気軽に楽しむ事が出来る機会として、最近ではFacebookにおいて「トイレのお花仲間」というアルバムを立ち上げ、情報発信をしています。ここには未経験の皆さんを中心に多くの方が参加され、それぞれ思い思いに一輪一枝を挿し気軽にお花を楽しまれて大きな盛り上がりをみせており、多くの方から注目を浴びています。
いけばな指導や展覧会の開催だけにとどまらず、結婚式やパーティー会場のお花、コンサートなどの舞台装飾、他分野とのコラボレーション、外国の方へのいけばなの普及、講演など、多方面にわたり活動し多くの人に喜ばれています。