「転ばぬ先の杖」という言葉がありますが、”学び” や ”経験” を得るためには転ぶことも大切です
ごきげんよう、こんにちは、こんばんは、内藤正風です。
今日は朝から、光風流本部いけばな教室でお稽古三昧の1日でした。レンギョウを使った格花を初めてお稽古された方から始まって、今週末に開催される「光風流西播支部いけばな展」の作品作りのお稽古まで、お越しくださった皆さんそれぞれにテーマをもってお稽古をしていただきました。
「転ばぬ先の杖」という故事
いけばなのお稽古をしている中で、人の上達という事に限って言うと、これは当てはまらないなぁという故事があります。それは「転ばぬ先の杖」という言葉です。
前もって準備や用心をしておけば失敗することがないという意味になりますが、確かに失敗をしないように前もって準備や用心をしておくことは大切です。しかしそれは失敗した経験があるから、どんな準備やどんな用心を事前にしておけば良いのかが分かるから可能になる事であって、失敗自体をしたことがない人には、失敗をしないようにするために、どんな準備や用心が必要なのかすらわからない場合がほとんどになってきます。
いうなれば、転ばないようにどんな杖が必要なのかが分からないって状態ですね。
なので私は失敗から学ぶことは沢山あるし、失敗は不可欠だと思うのです。
失敗をせずに “いけばな” の上達はない
私は、いけばなの上達に必要なのは、「いかに有益な失敗を沢山するか」という事だと考えています。
例えば「枝を曲げる」と言う行為を例に挙げると、最初はどのくらいの力を掛けたりどのくらいのスピードで曲げたら良いのかなんてマルっきりわかりません。そんな中、この力加減やスピードをどのようにしたらよいのかを体得してゆくためには、力をかけすぎて枝が折れたり力の掛け方が足りずに枝が伸びてしまったりという経験、すなわち失敗を積み重ねる事によって、身に付けてゆくことが出来るものになります。
いけばなで言うとわかりにくいかもしれませんので、お料理を例に挙げてお話ししたいと思います。
お料理って皆さん失敗して学んでこられていますよね。味が濃すぎたり薄すぎたり、甘すぎたり辛すぎたりという経験を積み重ねて学んでこられていると思います。特に卵料理なんてまさに失敗して学ばれたのではないでしょうか。茶碗蒸しを作ろうとして蒸す時間が長すぎて固くなりすぎて、次に時間を短くしたら短すぎて固まり方が足りなかったり、オムレツを作ろうとしたけれど焼き過ぎてただの卵焼きになってしまったり、そういう経験を積み重ねて上達してきたのです。
なので言い方を変えますと、失敗をせずに茶碗蒸しの蒸し加減を身に付けたり、失敗をせずにフワトロのオムレツが作れるようになるのは、凄く難しいしものすごい時間が必要になるという事です。
いけばなの先生がお弟子さんのためにするべきなのは、命取りにならない失敗を沢山させてあげる事
世の多くの方が失敗と成功を対比の関係で位置づけ、成功=良い事、失敗=悪い事、と考えられる方がとても多いです。なので失敗と成功を単純に並べて、失敗しないようにという思考になっちゃう方が多いのだとも思います。
しかし失敗と成功は対比の関係ではなく同一線上に並んでいるものであり、それはつまり失敗を積み重ねたその延長線上に成功は存在しているものであって、成功に向かって進んでゆく過程に失敗が存在しているという事に他ならないのです。
とはいえだからと言って何でもかんでもとにかく失敗すればよいという事ではありません。だって命取りになる失敗をしたらそこで終わっちゃうんですから。。。
なのでいけばなの先生にとって一番大切なのは、生徒さんのお稽古の中で命取りにならない失敗をいかに沢山させてあげるかという事なのです。
先生がいつまでも手を出していたのでは、お弟子さんの成長なんてありません。使い慣れない花ばさみで最初は切りにくいでしょうが、だからと言って先生がいつまでも代わりに切ってあげていたのでは花ばさみを上手に使いこなせるようにはなりません。枝を曲げる事も最初は不慣れですからうまく行かないのが当然です。だからと言って先生が枝をいつも曲げてあげていたのでは生徒さんが曲げれるようにはなりません。
ただし用意されている全ての枝を折ってしまって使い物にならなくなってしまったり、鋏で指を切るような使い方をされている時には、手を出して手伝ってあげたり注意して差し上げないといけないですよね。
そのあたりのバランス感覚は、先生がお弟子さんをシッカリと注視しながら持たなければならないと思います。
転ばぬ先の杖は、時と場合による
転びながら学ぶからこそ、命取りにならないように上手に転ぶことが出来るようになるのですし、転ばぬようにどんな杖を用意したらよいのかが分かるようにもなるのです。
その為には転ぶことが不可欠ですし、そこからの学びを得られるようにすることが大切なのです。
短時間での上達の秘訣には、「転ばぬ先の杖」の考え方は時と場合によると私は思います。
内藤正風PROFILE
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平成5年(1993年)、光風流二世家元を継承。
お花を生けるという事は、幸せを生み出すという事。あなたの生活に幸せな物語を生み出すお手伝いをする、これが「いけばな」です。
光風流の伝承を大切にしながら日々移り変わる環境や価値観に合わせ、生活の中のチョットした空間に手軽に飾る事が出来る「小品花」や、「いけばな」を誰でもが気軽に楽しむ事が出来る機会として、最近ではFacebookにおいて「トイレのお花仲間」というアルバムを立ち上げ、情報発信をしています。ここには未経験の皆さんを中心に多くの方が参加され、それぞれ思い思いに一輪一枝を挿し気軽にお花を楽しまれて大きな盛り上がりをみせており、多くの方から注目を浴びています。
いけばな指導や展覧会の開催だけにとどまらず、結婚式やパーティー会場のお花、コンサートなどの舞台装飾、他分野とのコラボレーション、外国の方へのいけばなの普及、講演など、多方面にわたり活動し多くの人に喜ばれています。
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