「基本」とはレベルの低い事を言うのではなく、全てに関わる絶対に身につけておかなければならない重要な事を言うのです

ごきげんよう、こんにちは、そしてこんばんは、内藤正風です。

ゴールデンウイーク真っ只中ではありますが、私はそもそもの日常が決まったパターンが有るわけではなく、毎日違う生活をしているのが決まったパターンと言うのが日常なので、特に何かがあるというわけではなく、まさに日常を過ごしているだけの毎日です。

今日も光風流の役員会を開催し、その後に研究会を2つ開催するという1日でした。

そんな中、研究会の中で「基本」という事についてお話しさせていただいたのですが、今日のブログではそんな事について書きたいと思います。

そもそも「型」とか「基本」とは

いけばなの教室に来られている方がある程度お稽古を積み重ねられると、作品作りに自分なりの好みや主張が出てきます。これは成長の証しでもあるので、とても素晴らしい事です。が、実はここで大きな落とし穴が有る事をご存じでしょうか。

いけばなには「型」というものが有ります。「型」とはすなわち「基本」です。「基本」と言うのは言いかえれば土台になるものです。
一般に「型」とか「基本」とかって聞くと、堅苦しいとか窮屈とかきまりと言うイメージをもたれる方が多いのではないかと思います。しかしこれは大きな間違いなのです。
光風流における「型」とか「基本」とは、皆さんの行動や発想やイメージを制限する外枠ではなく、皆さんの行動や発想を豊かにしてくれる「核」となるモノです。(ただこの「型」とか「基本」についての考え方は流派によって大きく違う場合もあります)

いけばなの練習を始めて最初の段階では、何も解らないので先生の言われる通りに皆さん真似をされます。「真似る」という言葉を語源にして「学ぶ」と言う言葉が生まれたと言われる説もある様に、真似る事から多くの事を習得する事が出来ます。
そしてある程度お稽古が進み、色々な事を学び覚えた段階に入ると、自分なりの好みや主張が出てきます。色々な新しい事に挑戦してみたり、自分の好みや主張を形にする事はとても大切です。だからこそ面白いし成長できるのですし、どんどんその楽しみを広げて行くべきだと思います。

そして一定の成長をできたり楽しみが広がったりした段階で、基本をもう一度履修するということが、自己のもう一段の成長に結びつけることができるのです。つまりこれが ”いけばな” でいうところの「原一旋転(げんいつせんてん)」ということに他ならず、一定の成長のたびに原点まで戻って繰り返すことで、より深くより広く学びを得ることができるようになるということなのです。

「基本」「変化」「応用」の3ステップ

昔から日本の芸事には「守破離」と言う教えが有ります。これは能を確立した世阿弥の言葉ですが、能だけに留まらずあらゆる事に通じる教えでもあります。
一般に練習と呼ばれるものは、基本を学ぶ、すなわち「守る」ところからスタートします。そして基本を習得し、それをもとにして環境や素材や季節など様々な事柄に応じて変化応用してゆくステップが「破る」という段階になります。変化応用が自由に出来る様になり、自分なりの創意工夫が十分に行われ成熟すると、型にとらわれず「離れる」事が出来るようになります。
ちなみにこれは「いけばな」だけの事ではなく、美容師さんや調理師さん、大工さん、しみ抜き屋さん、デザイナー、もうありとあらゆる世界の方が同じことが言えると思います。基本を習得し、変化させる方法を学び、自ら応用する事が出来る力を養う。すなわち「守」「破」「離」です。

ただここで言いたいのは、基本の習得とはそんなに簡単な事なのでしょうか。少なくとも、基本を学んだという事と、習得したという事と、身に付いたという事は全く違う事だと思います。ではどのレベルをもって完全に身に付いたと言うことが出来るのでしょうか。
私はこれまでに沢山の方をご指導させて頂いた経験から申し上げると、自分で「習得できた」「身に付いた」と思ったり言われたりしている方は、まだまだ未熟な場合が多いです。
本当に習得されたり身についている方は、自ら自分の足りないところが判るので、基本をマスターしたとは仰られなくなります。

「基本」とはレベルの低い事を指して言っているのではなく、全てに関わる絶対に身につけておかなければならない重要な事を言うのです

そもそも基本とはレベルの低い事を「基本」と言っているのではなく、全てに関わる絶対に身につけておかなければならない重要な事が「基本」とされているのです。なので、基本をレベルが低いと思っておられる方は物事を三角形で捉え、その底辺が基本だと考えておられます。しかし物事を円で捉え、その中核に位置するものが基本に他ならないのです。

自分の好みや感覚やイメージは、絶対に大切にしなければいけないものです。これはハッキリと言えます。しかしそれと同じだけ、基本の理解を深めることも大切なのです。
「型」をしっかりと身につけ、その型を破るからこそ「型破り」が出来るのです。「型」がしっかりと身についていないのに目先小手先でなんとかしようとするから「形無し」になってしまうのです。

しっかりとした「型」を身に付けて、ビッグな型破りが出来るように光風流の皆様にはなっていただきたいと思います。

内藤正風PROFILE

内藤 正風
内藤 正風
平成5年(1993年)、光風流二世家元を継承。
お花を生けるという事は、幸せを生み出すという事。あなたの生活に幸せな物語を生み出すお手伝いをする、これが「いけばな」です。
光風流の伝承を大切にしながら日々移り変わる環境や価値観に合わせ、生活の中のチョットした空間に手軽に飾る事が出来る「小品花」や、「いけばな」を誰でもが気軽に楽しむ事が出来る機会として、最近ではFacebookにおいて「トイレのお花仲間」というアルバムを立ち上げ、情報発信をしています。ここには未経験の皆さんを中心に多くの方が参加され、それぞれ思い思いに一輪一枝を挿し気軽にお花を楽しまれて大きな盛り上がりをみせており、多くの方から注目を浴びています。
いけばな指導や展覧会の開催だけにとどまらず、結婚式やパーティー会場のお花、コンサートなどの舞台装飾、他分野とのコラボレーション、外国の方へのいけばなの普及、講演など、多方面にわたり活動し多くの人に喜ばれています。