目に見えるものに捕らわれてしまうから、目に見えないものを感じる事が出来なくなってしまうのです。引き算の美こそが ”いけばなの神髄” だと思います

ごきげんよう、こんにちは、そしてこんばんは、内藤正風です。

今日は雑務に追いかけられる1日になっています。なんでこんなに色んなしないといけない事が次から次から出てくるのでしょうね。その上やってもやっても、終わらないし。(笑)

そんなことを思っていたら「引き算の美」という事についてふと思ったので、今日はそんなことについて書きたいと思います。

日本文化の特徴とは

日本文化の特徴っていうと色々なものをあげる事が出来ると思います。そんな様々なもの全ての根底には、八百万信仰に基づく自然との共存がしっかりとした土台になっています。なのですべて物を受け入れるという寛容さが備わっています。
したがってどんな新しいものや異文化もいったんは受け入れたうえで、自らの中で独自のものに昇華させてしまいます。これはカタカナや他宗教というものを見れば、一目瞭然でお判りいただく事が出来ると思います。

そのような中、日本が独自のものに昇華させ生み出してきたものには必ず1つの特徴があります。それは「引き算」です。

加える文化ではなく、引く事による文化

「引き算」とはすなわち、不要なものを取り去るという事です。この考え方が一番わかりやすい例が日常生活の中にあります。それはお食事の時の「お出汁」です。
お出汁は、昆布やカツオやおじゃこなど様々なものからとりますが、そのすべてに共通しているのは、美味しい一番良いところを抽出して使うという事で、本体ごと使うのではなく旨味成分だけを取り出してお料理に使うという事です。つまり不要なものを取り去ることによって一番良いところを使うという事です。なのでお出汁をとる作業の事を日本料理の料理人さんは「出汁を引く」という風に言われます。

そして加える文化と引く文化の違いを明確に対比させることが出来るのが、油絵と水墨画だと思います。
油絵はご存じのようにキャンバスの上に絵の具を載せてゆきます。なのでキャンバスの上に絵の具を置いていない余白はありませんし、なんなら絵の具が重なって盛り上がっています。
一方水墨画は、襖絵であろうと掛け軸であろうと、墨の濃淡や線などを中心に書かれてゆきます。なので何も書かれていない余白が多数存在しています。
がしかし、書かれていない余白は無として存在しているのではなく、何も書かれていないからこそ雄大な空を感じさせてくれたり水面を感じさせてくれたりという役割を果たしています。

目に見えないものは存在していないのか

「引く」とか「減らす」とか「取り去る」という風に聞くと、一般的にはマイナスしてゆく事で小さくなったり弱くなったりするという風に考えがちです。確かに一面的にはそういう事が出来ると思います。10-1=9、9-2=7なんですから。
つまりこの考え方は、「見えるものが全てで、見えない(見えていない)ものは存在していない」という思考によって成立しているという事なのです。

それではここで質問させていただきます。皆さんの周りにある空間には、何もないのですか?
いいえそんなことはありません。空気が存在しています。目には見えませんが、私たちが命をつないでゆくうえでなくてはならない空気が存在しています。
つまり目に見えない=何もないという事ではなく、目に見えなくてもそこには何かしらの存在や力や働きがあるという事に他ならないのです。

なので日本の文化は、目に見えるものだけではなく目に見えないものも存在として認め、そのうえで成立しているものであるという事が出来るのです。

いけばなは「引き算の美」

私は、いけばなは「引き算の美」の最たるものの1つだと思っています。
不要な葉を取り去ることによって、残った葉が効果的にそして強く働くようになる。水盤に広がる水を水面に見立てて雄大な海を感じさせる。枝と枝の間に存在する空間を効果的に生かすことによって、空間という働きを生み出す。これらは引き算の考え方以外のなにものでもないですし、引き算の考え方や手法によって生み出される美そのものなのです。

目に見えるものだけに捕らわれるのではなく、目に見えないものを感じる事こそが、いけばなだけにとどまらず日本文化の神髄なのではないでしょうか。

内藤正風PROFILE

内藤 正風
内藤 正風
平成5年(1993年)、光風流二世家元を継承。
お花を生けるという事は、幸せを生み出すという事。あなたの生活に幸せな物語を生み出すお手伝いをする、これが「いけばな」です。
光風流の伝承を大切にしながら日々移り変わる環境や価値観に合わせ、生活の中のチョットした空間に手軽に飾る事が出来る「小品花」や、「いけばな」を誰でもが気軽に楽しむ事が出来る機会として、最近ではFacebookにおいて「トイレのお花仲間」というアルバムを立ち上げ、情報発信をしています。ここには未経験の皆さんを中心に多くの方が参加され、それぞれ思い思いに一輪一枝を挿し気軽にお花を楽しまれて大きな盛り上がりをみせており、多くの方から注目を浴びています。
いけばな指導や展覧会の開催だけにとどまらず、結婚式やパーティー会場のお花、コンサートなどの舞台装飾、他分野とのコラボレーション、外国の方へのいけばなの普及、講演など、多方面にわたり活動し多くの人に喜ばれています。